Sustainability
大阪南河内 大橋山林業
大阪南河内 大橋山林業

人工林の課題と大橋式路網の導入

拡大造林によって、日本の4割強の森林は人工林につくり替えられました。ところが木材価格の低迷で、管理されない厳しい状態に陥っています。

今後の森林整備の基盤として、森林作業道をつくることは不可欠です。しかし今まで国は、林道中心でやってきたんです。林道はコンクリートで固めますが、私たちのやっている大橋式路網はコンクリートで固めないんです。コンクリートで固めなくても壊れない。小菅村では、格段に安価につくれて壊れない路網を2007年(平成19)から導入しています。

自然の力を活かした「拡水工法」

指導してくださる大橋慶三郎先生の説によると、山の一番強い所は尾根なんだそうです。それで、この路網は一気に稜線尾根まで上る道筋をとります。尾根にも急な傾斜と緩やかな傾斜があるため、緩やかなほうを選んで道をつけます。

「だいたいにおいて、人間と水は集まるとろくなことをせん」というのが大橋先生の持論です。ですから、「台風のときに山を見に行きなさい。大雨のときに水がどう流れるか見定めなさい。水が流れることで大地が掘られて、山を崩落させるんだから」と言うんです。だから道も谷側を低くします。そうすることで水を一カ所に集めないで、バラバラバラッと拡散させながら流していくと、道は削られないし壊れないのです。先生はそれを「拡水工法」と呼んでいます。

 

大橋式路網の仕組みと可能性

システムとしては、幹線道は丸くて平らで厚みのある安定した尾根につくり、ヘアピンカーブをつくって、いっきに尾根まで到達する経路をつくります。支線は、そのヘアピンカーブを基点として、等高線に沿って水平につくります。その場合も、タナと呼ぶ強い箇所を通るようにします。タナは、地図上でも等高線の間隔が若干広くなっている所です。

大橋先生が所有する100haの大橋山は、大阪府の南東部、南河内郡千早赤阪村大字水分篠峰山にあります。ここで長年にわたり、ありのままの自然を真摯に観察しながら実践してきた成果が、この大橋式路網なのです。

大橋式路網による森林再生と持続可能な管理

急峻な山地での作業は辛く、危険も伴うものです。こうした条件が、森林の荒廃に拍車をかけていました。多摩川源流研究所がある小菅村でも、急傾斜地に道をつけることは山を壊すことになると、多くの山主は諦めていました。

ところが大橋先生は1haに200mの密度で、2tトラックが入れる開発費が安い道を可能にしました。これは、一人でも木を伐って出すことができ、結果として、労働年齢を引き伸せることを意味します。村の95%が森林という小菅村にとって、大橋式路網の導入は、森林再生を促す光明でした。

 

大橋式路網による低コストな森林再生と持続的な環境改善

大橋式路網は、道幅2.5m、切取法高(のりだか)1.4m(人間の肩の高さ)を基準としています。急傾斜地に幅の狭い道をつけるので、路肩を堅固にする必要があります。基礎丸太を敷き、横木を1m間隔で置き釘で固定してから、土留め丸太を重ねて止め、土砂をかけて固めます。一般的な林道をつくるのに、小菅村の場合は1mで25万円ほどかかっていました。大橋式路網なら1m7000円でつくれます。

道をつけたことで光が差し込みますから、路網の法面(のりめん)にはすぐに草が生えて、やがて灌木も生えてきます。乏しい生態系だった人工林が、豊かに生まれ変わるんです。

大橋式路網と自然観察が導く林業再生の未来

大橋先生は、「内部の状態は、必ず外部に現われる。自然をありのままに見ること。山を見て、円やか、穏やか、厚みのある相は、内部も安定している。険しい、削げた、曲がりくねった、尖った、薄い、乱れたなどの相は、不安定でよくない」と言います。実際に小菅村に来ていただき、路網をどこにつくるか決めたときにも、何回も何回も現地を上り下りして確かめておられました。その姿勢には、本当に感銘を受けました。

木を使えば、源流の村が活性化できます。でも、今までは使ってもらおうにも伐り出しにくかった。それを大橋式路網は可能にしてくれました。

同じような条件で林業再生を諦めている山地にも、これを広めて、全国規模の運動にしていきたいと思います。

 

美しい海と山、自然豊かな貝塚

大阪府貝塚産材は、和泉葛城山脈、国天然記念物のブナ林の麓に広がる樹齢100年の森林から搬出された。貝塚市は奈良時代から木材産出の「森林の国」であり、高僧行基が水間寺をはじめ畿内49寺院を建立した際、皇族の橘諸兄の所領となっていた杣山から木材提供を受けたとの記述が残っている。また、山に伏し山に生きる葛城修験道の聖地でもあり、日本遺産にも指定されている。(今回の杉材は、葛城修験道の行場の1つである佛念山不動滝の山から搬出している)なお、ブナ林などの森林は、干潟や美しい海を育み、大阪初のブルーフラッグビーチ国際環境認証を2024年5月に取得した。さらには、日本初、海と山をつなぐ貝塚プロジェクトでは次世代の育成にも取り組んでいる。